雨のち曇りそして晴れー第一話ーーある雨の日ーー06

第一話ーーある雨の日ーー06

 「ここからちょっと説教臭くなるけど、聞いてくれるかな?」

 裕介は真面目な顔になって彼女に話し始めた。

 「……はい……」

 彼女は神妙な顔で答えた。裕介はその顔を笑顔で見て、また缶コーヒーを一口飲んだ。

 「と、その前に改めて自己紹介しようか。俺の名前は裕介、後藤オートの二代目になるな。さっきのうるさいのが俺の親父、この店の初代。みんなオヤジさんって呼んでる」

 裕介はチラリと康二を見てニヤリと笑うと

 「そんでコイツが康二、コイツの兄貴と俺とは友達でね。まぁコイツも俺の弟みたいなもんだ。ほらちゃんと自己紹介しろよ」

 「改めて、康二、鈴木康二です。ごめんね。こんな所に連れて来ちゃって」

 彼女は、微笑みながら首を振った。康二は、彼女のそんな顔を見て少し安心していた。

 「こんな所はねぇだろうがよ。けど、俺でもこんなバイク屋来たくねぇけどな。で、お嬢さんの名前は?」

 「はい。私は本田 希と言います。大学生です」

 「本田さんがヤマハさんに乗ってるのか?」

 裕介は笑った。

 「本田さんがホンダに乗ってるって言われるのが嫌で、ヤマハにしたんです」

 おっ、なかなか言い返しだ

 康二は変な所で感心していた。

 「鈴木さんがスズキに乗ってる奴もいるけどな」

 「え?」

 「はい。僕が鈴木さんでスズキのバイクに乗っています」

 康二が笑って言った。希も、打ち解けて来たのか、笑顔を見せた。

 良い笑顔だな……

 康二は素直に思った。

 見た感じ、この子はしっかりしてて良い子そうなんだけどなぁ。なんでバイクは面倒見なかったのかな。本当はバイク嫌いなのかな……

 「じゃあ、改めて、希ちゃんに聞こうかな。バイク乗ってて楽しい?」

 雄介が真剣な顔をして希に聞いた。

 「え?」

 希は不意を突かれて答えられなかった。裕介は続けた。

 「何でこんな事を聞いたかって言うと、希ちゃんのバイクはバイクが好きな人のバイクじゃないんだよね」

 「そんなの見てわかるんですか?」

 希は、驚きながら裕介に聞いた。裕介は笑いながら答えた。

 「まぁ、勘だけどね。一応これでもバイク屋だしね。バイク好きな奴のバイクは、それなりに手入れしてるもんだよ。半年も放置しているなんて考えられないかな。冬越しとは言えね……多分、康二もこのバイクを見てそう思ったはずだよ。な、康二」

 康二は小さく頷いた。

 希は、コンビニでの事を思い出していた。

 そうか、あの時怖い顔をしていたのは……

 康二は、希の反応を見ていた。希は膝の上に置いた手を強く握り、俯いていた。

 「ぶっちゃけ、おじさんとしては乗っている人間が、バイク好きだろうがどうだろうが関係ないんだけどね。商売になれば良いんだけどさ。ただね……」

 「ただ?」

 裕介は康二をチラリと見て言った。

 「ただ、自分の命を預けるもんなんだからさ、大事にしてもらいたいなぁって思うわけさ」

 「自分の命……」

 希は小さく呟いた。康二は、何か思うところがあるのか、下を向いていた。

 誰も何も話さなくなった。雄介は希に考える時間を与えているようだった。

 静かに時間が流れ、雨の音だけが聞こえていた。

 すると、静寂を破るように

 「差し入れ持ってきたよ〜。たまにはうちのコーヒーの味を思い出してもらわなくちゃね」

 と陽気に遥子がポットとカップを持って店に入ってきた。

 「サンキュー」

 裕介は遥子に言った。遥子はニヤリと笑い、

 「料金はもらうけどね」

 「差し入れじゃねぇじゃん。あ、このおばちゃんは、隣のカフェやってる遥子、俺の幼馴染」

 「おばちゃん言うなっ!」

 この二人のやり取りは全く遠慮が無い、それでも喧嘩にならないのは、長い付き合いだから出来るのだろう。康二はこの二人が大好きだった。

 「ところで親父は?」

 「なんかまだブツクサ言ってたよ。めんどくさいから、店閉めてきちゃった。今日、灯ちゃんもいないからさ。それよか、私としては原因を見たかったわけよ」

 「原因って……」

 康二が呆れたように呟いた。

 ホントにこの人はデリカシーって物がないのかね……。

 「康二クン、何か言いたそうな顔をしてる」

 遥子は康二の顔を見て、イタズラっぽく笑った。この屈託の無さが、遥子の魅力ではある。

 遥子は希のバイクを見渡して言った。

 「この子かぁ。なるほどね。こりゃオヤジさん怒るわ」

 「おいおい、本人を前にして……」

 裕介が嗜める様に遥子に言った。

 「だけどさぁ、あんたもそう思ってるんだろ?女の子の前だからって良い顔するんじゃないよ」

 希は、下を向いてしまった。

 「だから、今その話をしてんの。あんまいじめんなよ。希ちゃん下向いちゃったじゃねぇか」

 「はいはい。康二クン、コーヒー入れて、あと椅子頂戴」

 遥子は、そう言いながら、希の前に別のカップを差し出した。

 「はい、これはあなた用。遥子さん特製のホットチョコレート!身体温まるよ」

 希は驚きながら、カップを受け取り一口、口に含んだ。

 「温かい……」

 希は遥子の優しさに涙が出そうだった。遥子はそんな希を見ながら微笑んでいた。

 「何だよ、帰らないのかよ」

 裕介は迷惑そうに遥子に言った。

 「別に良いじゃん。店も閉めちゃったしさ。何よりも康二クンが連れてきた女の子見たいわけよ」

 康二が持って来た椅子に座りながら、遥子が言った。

 「ちょっと、遥子さん、何言ってんの。そんなんじゃ無いって。希ちゃん困っちゃうじゃん」

 康二は、困った顔をして希を見た。希はキョトンとしている。

 「なんでよ?女の子連れくるなんて、お姉さんとしては康二クンも大人になったなぁって嬉しかったのにさ」

 遥子は、康二をイジるのが楽しくて仕方がないようだ。遥子のおかげで、重かった空気が、一気に柔らかくなった。

 「居ても良いけど。チャチャ入れんなよ。一応真面目な話するんだからな」

 「そんなことしないわよ。ねぇ康二クン」

 遥子はまだ康二をイジりたいようだった。

 「俺に降らないでよ」

 康二は、嫌がってはいるが、重かった場の空気を変えてくれた遥子に感謝をしていた。

 「全く、しょうがねぇな。ごめんね。俺たちいつもこんな感じなんだよ」

 裕介は希に優しく言った。希は首を振った。

 裕介は改めて希に聞いた。

 「えっと、話が途切れちゃったけど、まだおじさんの説教聞く気ある?」

 希は小さく頷いた。その姿を見て、遥子は感心した様な表情を見せた。

 「そっか、あのさ、希ちゃんはバイクってどんな乗り物だと思う?」

 

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